ヒトコトLAトーキング #55 ストライキ in LA

ロサンジェルスの中心ハリウッドは映画のメッカです。俳優、脚本家など映画業界の絶対数が他の都市に比べやたら多いです。特に有名な俳優達は影響力も大きいので彼らが何かしだすと周囲の人達も動き出します。ロスで始まったストライキはそんな風に広まっています。

そもそも映画関係者のストライキは何故始まったかについてですが彼らが属しているユニオンがメンバーたちの投票の多数決によってこのストライキを決定したからです。SAG-AFTRA (Screen Actors Guild – American Federation of Television and Radio Artists) という長ったらしい名前のユニオンですが、ここに登録している16万人ほどの俳優、ジャーナリスト、アナウンサー、スタントマンなど映像関係のメンバーが正当な労働条件を与えられることと、正当な賃金を支払われるように彼らの契約会社と交渉しお互い満足のいくよう取り計らう役目を担っています。今回このサグ-アフトラとAMPFP (Alliance of Motion Picture and Television Producersとなんでこれもこんな長ったらしいのでしょうか) という映像プロダクションの会社(ディズニー、パラマウント、ネットフレックスなど)の交渉が決裂したのが原因だそうです。サグ-アフトラとAMPFPの契約は3年おきに更新されるそうで今年の6月30日が更新期日だったようですが合意に達せず、翌月7月12日まで延長されていたそうです。ユニオンからのメインの要求は上記のとうり賃金引き上げと労働条件というおそらく毎時更新時には同じような交渉をしていると思うのですが今回はどちらも簡単に妥協できない理由がありました。今のアメリカの生活環境とデジタル技術に深く影響を受けているからです。
コロナの影響、ウクライナの戦争、ここ数年に渡るアメリカの不況はインフレを起こしさらに金利の上昇を引き起こしています。雇用者の賃金もそれにつれて上がるべきものがそうもいかず実際どの業界でも今は同じ景気の悪い状況ですが、特に華やかなフィルム業界ではもともと安定した収入が期待できる人間はほんのひと握りでしょう。そんな彼らのためのユニオンですが映像会社の方もそんな厳しい現実の中での合意は難しいようです。さらに、日進月歩のデジタル技術が追い討ちをかけています。もう何年も前にもなりますがBeowulf (バイオウルフ)という古代の物語りを舞台にしたアクション映画がありました。デジタル化されたアンジョリーナジョエリーが出演して当時ニュースになりました(*1)。登場するキャラクター全てデジタル化されていますが、全く違和感なく最後まで見れた事を覚えています。調べてみればこの映画が作成されたのはすでに2007年だったので16年後の今、PS5やVRが簡単に手に入る今の人間の目からすると当時の技術とは全く比較にならないです。デジタルキャラクターもすでにある地位をすでに獲得してきているように思えます。そしてさらにここ最近にも出てきたチャットGPT,すでに脚本までAIによって作成できるものとなりました。映像技術については細かく知りませんが、目で見る動画、耳で聞く音響効果、話の内容などかなり総合技術が’必要とされるはずで、それぞれの項目からデジタルの侵食がもう止まりません。音楽がいい例だと思いますがひと昔前の録音技術ではアコースティックに勝るサウンドはないなんて豪語する人間が結構いたものですが今ではどれだけそこに拘る人間がいるでしょうか?有名なオーケストラのコンサートを聞きに行く理由の一つにはそれぞれのパートに使われている値段もつかないような高い本物の楽器の音色を堪能するためですね。今ではボーカルも含めて多分全ての楽器のサウンドはアナログかデジタルかの区別がつかないでしょう。しかもその辺の雑貨屋で買える安価のキーボードでもその程度再生できるとなるとミュージシャンを雇って全てのパートを録音する律儀な作曲家はいなくなるでしょう。もうすでにそんな録音はクラシック音楽くらいかもしれません。映像撮影に必要な役者達も全く同じ立場になってしまってますね。残念ながらデジタルの便利さと費用に太刀打ちのできるアナログ技術はほぼ存在しないでしょう。ユニオンがどうあがいても彼らのサポートには限界があるわけですが行き場を失ってしまう可能性のある大多数の俳優達は全力で反発中です。そんなハリウッド中心外では街頭演説やプラカードを持って右往左往している団体などで地元住人も影響を受けているわけで、こうして徐々にストライキの波が広まって行きました。特にハイプロファイルの影響も大きく、メルローズストリープやジェニファーローレンス、マットデーモンなど超有名俳優達もユニオンをサポートするコメントをしています。彼らのファンは勿論黙ってはいないんでしょう。

ストライキが始まってから少し時間が経っていますがいまだに映画の都ハリウッド近辺の撮影関連のビジネスに影響が出ているようです。現場撮影でクルーに食事提供するをケータリング会社、撮影近所のレストラン、大道具クルー、衣装のドライクリーニング会社、運転手や花屋などが打撃を受けているようです。

The strikes don’t impact just writers or actors.

Halted productions impact all kinds of businesses, including companies that provide catering for productions, restaurants near studios, prop houses, set builders, dry cleaners, professional drivers, florists and more.

ストライキの影響は関連ビジネスだけでなく、我々一般庶民にも影響が出ています。ネットフレックスなどで観ているドラマシリーズなど続きが延期される番組が多々あります。下記はほんの一例です。

リングズオブパワー シーズン2

ハウスオブザドラゴン シーズン2 

インタビューウイズバンパイア シーズン2

ブレードランナー2099

ストレンジャーシングス ファイナルシーズン

上映予定の映画にもスケジュールに影響が出ました。下記ウイキペディアからのほんの一部抜粋ですが日本での上映にも影響が出るのでしょうか。 アバター3、4 アベンジャーズ ファンタスティックフォー スパイダーマン ビヨンド スパイダーバース スーパーマン レガシー バットマン パート2

ロサンジェルス市の職員までもがこのストに感化され、空港職員、市内バス運転手達までもが賃金に不満を持ちストライキを始めているそうです。このためこれら公共交通機関を使う人たちは普段より時間がかかることを想定していた方がいいと注意を出しています。

今回のストがこれだけ拡散したのには、結局アメリカ経済の不安定からくる市民の不安からきているように思えます。この市民の声をどれだけ聞き我々の納得のいく社会にしていくのか、これからの政治家達の活動が大きく左右してきそうですが、デジタル化に関して言えばどうにもなるような気がしません。デジタルがいつか全てを淘汰するだろうと分かっていた人も多いでしょうが、今回のこのストライキが本当のデジタル転換期になってしまうのかもしれません。金儲けが目的のコマーシャルの会社にはもう後戻りはできないのでAIが次の世代の中心になるのは間違いないでしょう。役者やミュージシャン、シナリオライターや作曲家が今後も活躍できる場所は真剣なアートの世界くらいでしょう。音楽で例えるとクラシックミュージックというジャンルはヒップポップやロックなどの商業音楽全体の収入に比べて多分ほんの1%程度かもしれません。なので彼らの収入額でいうとかなり低いはずですが音楽教育という立場から公的なサポートが受けやすいのも事実でありしかも歴史を残すためという国からの支援もあるのでなくなることはないはずです。小中学校でいまだにベートーベンを聞かされるのはまさにそのせいです。勿論いいことです。役者にしてみると舞台演劇、大袈裟なところでシェークスピアなどそういったものでやっていくのが本当の生き残りになるのかもしません。コマーシャルの世界ではプログラミングを使いこなせる人間がアーティストとなるんでしょうと思ったのですがすでにもうなっていますね。今から10年後の世界、人の娯楽は一体どうなっているんでしょうか?楽しみですねえ。ちなみにこのストに関しての詳細機になる方は下記リンク参照してみてください。